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ペダルまかせ ~自転車のある生活~

自転車でブラリと巡る古都(京都・前編)

2011年7月15日

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写真:力強くそびえる東寺の五重塔拡大力強くそびえる東寺の五重塔

写真:三十三間堂も裏側は静かだ拡大三十三間堂も裏側は静かだ

写真:南禅寺の風景に溶け込む水路閣拡大南禅寺の風景に溶け込む水路閣

写真:奥丹の湯豆腐は座敷で食す拡大奥丹の湯豆腐は座敷で食す

写真:哲学出来ぬ人も歩く哲学の道拡大哲学出来ぬ人も歩く哲学の道

写真:曼殊院で庭を見ながらくつろぐ拡大曼殊院で庭を見ながらくつろぐ

写真:宝泉院の庭は柱越しに見る拡大宝泉院の庭は柱越しに見る

 京都のように点というより線あるいは面で観光ポイントがあるところは、電車やバスの移動ではもったいない。かといって徒歩では制約がある。今回は自転車でめぐってみようと思い立った。初日はまず東の方面。

散歩あるいはハイキングスタイルで

 サイクルジャージーはポロシャツに、スパッツをやめて普通の短パンの下に自転車用のインナーパンツをはいた。神社仏閣の境内を歩くことを想定し、靴もペダルに固定されるビンディングでなくスニーカー。ヘルメットは不要かと思ったが、ある思惑があって持参した。

 例によって京都駅までは新幹線のぞみ。ウイークデーだったので、通勤ラッシュを避けるため、5時に起床した。目指すは、新横浜発6時39分発の「のぞみ」の自由席。

前にも書いたが、できれば背後に自転車が置ける車両最後部の席を確保したい。今回も確保成功。ここだけの話だが、夏休みやゴールデンウイークは知らず、新幹線は意外と自由席車両が場所選びの“穴場”だ。8時39分に京都駅についた。

 自転車を組み立てて乗り出すまでに10数分。バラして袋詰めはもう少しかかるが、いずれにしても2~3度経験知れば、輪行は想像していたよりずっと易しい。

初めての東寺

 最初に訪ねたのは東寺。駅の南側にあるため、これまで何度か京都を訪ねた際、コースが組み立てにくくて訪ねていなかった。平安遷都とともに建てられた官立の寺院。濃い緑の向こうに、華麗にして勇壮な国宝の五重塔が力強くそびえている。建物や仏像に国宝、重文がぞろぞろある、堂々とした伽藍(がらん)だ。まだ朝が早いせいか、数組の修学旅行生以外あまり観光客の姿はない。

 こうした寺では駐輪場は駐車場の片隅にあるのが普通だ。観光客ばかりなので盗難の恐れは市中よりは少ないと思われる。駐輪するときは軽便なワイヤのカギはかけるが、不安は残る。今回はフトひらめいて、ハンドルにヘルメットもかけておくこととした。「すぐ戻って来ますよ」というメセージを込めたつもりだ。でも、本当にそんな効果があったかどうかはわからない。

新選組と宮本武蔵

 東寺から三十三間堂ヘと向かう。途中、「油小路七条下る」を訪ねる。新選組の近藤一派とたもとを分かった伊東甲子太郎を、近藤たちが暗殺した場所。死体を油小路七条に放置し、引き取りに来た仲間を惨殺したという残忍な事件の現場だ。ひっそりと石碑があり、そばの立て札を読んでいたら、近所の隠居風のおじさんがいろいろ説明してくれた。地味な“観光地”なので訪れる人は少ないとみえ、その相手をするのが楽しみと見受けられた。

 三十三間堂の1001体の千手観音は圧巻だ。一つでも見事な観音像が、1001体並んでいる。ほとんど言葉を失う。といいながらも、冷え込む夜半、吉岡伝七郎がじりじりしながら武蔵を待ったのは、長い縁側の「どのあたりだったのだろう」などと、吉川英治の「宮本武蔵」に関心は移ってしまう。

昼飯は南禅寺の湯豆腐

 京都へ来ると欠かさず訪ねる南禅寺。山門越しに見る緑が何とも言えず鮮やかだ。これが秋になると紅葉し、まさに絶景の美しさを見せる。境内にある煉瓦(れんが)の水路閣は、古い仏閣と近代の技術が見事に調和している。個人的に碓氷峠の眼鏡橋と東京駅舎と合わせて、美しい煉瓦の三大建造物と呼んでいる。

 昼飯時となった。というより南禅寺で昼飯時間になるように回ってきた。名物は言わずと知れた湯豆腐。今回は、360年の歴史があるという奥丹に寄ってみた。料理は「湯とうふ1通り」3150円の1種類。湯どうふ、木の芽田楽、精進天ぷら、胡麻どうふ、飯と香の物。私的な感想を言えば、味やサービスが価格相応かどうかは若干の疑問は残る。しかし構えやロケーションを考えれば、「ま、こんなものか」。

哲学の道を歩いても俗人は俗人

 八坂神社で美御前社(うつくしごぜんしゃ)にお参り。祇園の舞妓や芸妓も良くお参りするという美の神様。見かけばかりでなく心も美しくしてくれるという。「今更なあ・・・」と思いつつも手を合わせる。

 自転車を押してとぼとぼと「哲学の道」を歩く。ここでは真理とか永遠とか、高邁(こうまい)なことについて思索したかったのだが、頭の中からは俗念が離れない。凡庸なる俗人はどこにあっても凡庸な俗人に過ぎない。

 途中、好きな寺の一つ法然院に立ち寄る。素朴な藁葺の門と、その向こうに見える今なら緑、秋なら紅葉が美しい。団体客や修学旅行生を見たことがない。静かなたたずまい。独り占めしておきたいようなお寺だ。

詩仙堂から曼殊院へ

 石川丈山が59歳で造営し、30余年を聖賢の教えを勤めとして過ごしたという詩仙堂。今でいえば、「60歳定年の後、書物と庭を眺めて30余年」。煩悩多き身としては勤まりそうもない。白砂の庭と真っ赤なさつきが美しい。ここは名前が魅力的なこともあり、いつも観光客の多いところだ。

 次に訪ねた曼殊院は、さほど多くない観光客はタクシーで来る。とにかくアクセスが不便。そのためか周囲の農村的風景も40余年前に訪ねた時とほとんど変わっていない。静かで何とも心地よい寺だ。

 昼下がりの住宅街を行く。自転車は騒音も排ガスも出さない。静かだ。どこかの庭から草花の甘い芳香が漂ってくる。風のそよぎを感じ、木々の息吹を浴びる。もくろんだ通り自転車の京歩きはなかなか良い。

ユニークな額縁庭園

 東山界隈から大原までは少し距離がある。しかしロードバイクならこれくらいは距離のうちに入らない。目当ては三千院の奥にある宝泉院。抹茶付きの拝観料が800円。この寺の特徴は柱の空間を額縁に見立てて、庭を絵画のように眺められること。一度見たら忘れられない光景だ。

 5時の閉園間際、参観者は3人だけ。手がすいた住職の藤井さんが出てきて庭園の説明や、廊下の血天井のいわれなどを説明してくれた。時間があるときは時々相手をしてくれるそうで、こうした親しみやすい対応も好もしい。

 5時過ぎ、宝泉院を出て予約してある寂光院近くの民宿に向かった。

【メーターは楽しい小道具】

 自転車を楽しむ最初の小道具はサイコン(サイクルコンピューター)、いわゆるメーターだろう。シンプルなエントリーモデルは2000円前後からある。一種のハイテク機器で、基本的な性能としてはスピード、その日走った距離、その日の最高や平均のスピードなどを知ることができる。

 これをつけただけで、楽しみがグンとアップする。普段通いなれた道でも、サイコンを見ながら走ると意外と距離がなかったり、あるいはその反対だったり。長い距離を走るのが目標ではないにしても、少しずつ走った距離が伸びた時など、子供のころのようにうれしかったりもする。(中編は29日掲載予定)

プロフィール

三浦 壮介(みうら そうすけ)
 50歳に手が届くころから始めた自転車遊び。愛車・サンデー号で居住している湘南をふらりと流したり、時には温泉などに泊まりつつ輪行で古い街道や峠道を走ったり。でも、向かい風とのぼり坂はあまり好きでない。
 「自分の一生で今が一番若い。今できることを今やろう」、が最近の信条。自転車は敷居が低いが奥行きは深い。気ままに楽しんで気分転換。LDLコレステロールの黄信号がちょっと気がかりな176cm、1946年生まれ。目指すは“定年の達人”。

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